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「この世界の片隅に」感想

自分にとって、この作品によって描かれた時代は、戦争の時代という印象が強かった。この時代に思いを馳せると、火事から逃げ惑う人々、焼野原、すし詰めの防空壕、竹やりを持った坊主の少年達、生の芋をかじるやせ細った子供といった情景が必ず思い浮かんでくる。それは、学校の教育やドラマ・映画でこの時代が扱われるとき、しばしば戦争の側面ばかりが強調されてきたからであるように思う。

このこと自体は悪いものではなく、むしろ戦争の悲惨さを理解するためには効果があると思う。しかしその一方で、大正時代と戦後の間にあたる時代のイメージに、ぽっかりと穴が空いてしまっていた。戦前や戦時中にもその日常を生きる人々がいて、その人達が紡いできた文化があったにもかかわらず、それらが戦争という大きな渦に視線が吸い込まれてしまい、見えなくなっているのはもったいないことだった。

この世界の片隅に」では、世界の片隅で生きる主人公の日常が中心に描かれる事によって、時代の移り変わりと、その時代ごとの情景が平等に映されていたように思う。そこで描かれたものは、この時代のイメージに空いていた隙間を埋めてくれた。だからといって、戦争という出来事が過小評価されて描かれているわけではない。むしろ淡々と日々が積み重ねられていく延長線上に戦争という出来事が置かれることで、それを壊してしまう戦争というものの悲惨さを、より強く実感した。世界の片隅で、世界の中心とほどよく関わりあいながら営まれていく日常が、戦争というあまりにも大きな渦には抗えず、崩れていったとき、まるで自分に起こったことのように感情が揺さぶられた。

この映画は昭和初期という時代との新しい向き合い方を与えてくれた。またそれによって、戦争で壊されてしまうものの価値を心の底から理解することができたと思う。